医桜通信

第4回 東北発、日本の医療を変える仙台厚生病院

2011年11月1日 10:15 AM

「医桜通信」
第4回 東北発、日本の医療を変える仙台厚生病院3月11日の東日本大震災で被災した東北地方は、医療資源が少ない事で以前から問題になっていましたが、今回の震災でさらにそれが深刻化するのではないか、と予測する向きが多い中、東北地方に新医学部の設立の動きをされている、仙台厚生病院の目黒泰一郎理事長に話を聞いてみた。医学部新設ではなく、日本の医療改革として
東北地方の医師不足、医療資源不足について、それらの解決を急ぐ事は大事ですが、それだけを目的とした医学部新設ではなく、日本の医療を改革する方法の一つとして考えています。地方のたかだか400床足らずの病院でも、日本の医療改革に寄与したい、そのために発信すべきメッセージを持っているという意思表示を行いたいと考えたのが始まりです。その一つの方法として、医学部新設という構想が浮上しました。もちろん、東北地方の医師不足の解消を図るということも医学部設立の大きな目的ですが、第一の目標は医療改革に一石を投ずることにあります。
とはいっても、東北地方の医師不足対策は緊喫の課題です。地方医療対策としては、自治医大がその目的で設立されておりますが、我々が目指している医学部では、東北地方に焦点を絞り、県単位ではなく、地方自治体や病院を対象とする奨学生制度を構築したいと考えています。また、奨学金を予めスポンサーから頂くのではなく、基金は大学が作り、大学から奨学金を貸与し、卒業した奨学生が一定期間勤務する病院やその運営自治体から医師給与とは別に、奨学金を返済してもらうという逆賦課方式を考えています。言葉を変えて言えば、卒業奨学生の活動によって後輩奨学生が支援されるという仕組みです。
当仙台厚生病院は、医療における「選択と集中」を進めています。その内容は後述しますが、良質の医療を日夜提供しつつ、良好な経営を確保し、なおかつ医師をはじめとする職員の待遇改善を図っています。職員給与は、全国でも最高水準にあると自負していますが、それだけの還元を行っても、十分な利益を確保し、その勢いで医学部新設に挑戦しているという次第です。当院では、極端な話、診療報酬が10%削減される事があっても、黒字であり続けるだけの自信があります。つまり、医療における選択と集中は、経営面でも大きなメリットがあり、医療費削減にも貢献し得るということです。もちろん、医学部新設を目指していますから、今しばらくは診療報酬が下げられては困るのですが。
国家財政が逼迫している中での震災復興は、容易でないと思います。ですから、被災地の宮城にある病院から、医療費削減も可能で、即効性・実効性が期待できる医療改革案を提案することには、大きな意味があると考えています。一病院の活動から、医学部としての活動に拡大して情報発信を続ければ、より多くの人が耳を傾けてくれるものと期待しています。

これからの病院の在り方は3つの要素から成り立つ
先程の医療における「選択と集中」について紹介させていただきます。急性期病院の今後は「救急」「高度」「総合」の3本の柱のうち、2つを選択してやっていく必要があります。(第一段階の選択、三者二択)
多くの日本の病院が経営難に陥っているのは、これら3つを全て行おうとしているからだと考えております。当院の場合は、目の前に東北大学病院がある事もあり、生き残りを図って、「救急」「高度」を選択し、「総合」は放棄しました。次に、診療分野としては「心臓血管・呼吸器・消化器」の3つを選択し、そこに医師や病床を始めとする医療資源を集中することとしました。(第二段階の選択、診療分野の選択と医療資源の集中)
前述の3分野は、高度医療の24時間提供を行う傍ら、医療スタッフの待遇改善を図りました。スタッフ数に余裕を作る事で、十分な休息をとってもらい、同時に高度医療を提供するための学習や研鑽を積める環境を整備しました。技術向上による高評価は、病院業績の向上にもつながり、当院は良い循環に入りました。
最も改革・改善が進んでいる心臓血管センターでは、スタッフ数の余裕から、医師3名を1チームとして、現在5地域の病院への派遣を行っております。指導医クラス1名と若手2名のチーム構成での派遣です。派遣の目的は地域医療への貢献ですが、指導医クラスの医師には、派遣先病院で「管理職を経験してもらう事」というものもあります。この派遣は、ローテーションを組んでおりますので、ずっと派遣されたままという事はありません。戻りたいという希望があれば、すぐに戻ってこられますし、逆に派遣先病院でそのまま勤務を続けたいという場合も了承しています。すなわち、派遣される医師のモチベーションや希望を尊重しているということです。ですからこのローテーションは、それに従事している医師達にも好評で、医学部新設後の地域医療貢献システムのヒントになると考えています。

インタビューをして
東北に医学部新設をするという話題が、民主党政権になってから実現を帯びてくる中、仙台厚生病院の目黒先生のお名前を初めて知りました。大きな病院グループでもない、地方の一病院がどのような想いで医学部新設を考えているのか、かねてより興味がありまして、今回、取材のご依頼をさせて頂きました。
目黒先生のお人柄にも感銘を覚えましたが、「地方からの日本の医療改革」のコンセプトは、政党政治が混迷する中、主流になる考えだと感じました。
また経営につきましても「選択と集中」の原則に則り、成功を収めていらっしゃる事は、経営指針をどうするかで悩む医療機関にとって、多くのヒントがあるように感じます。
中小病院と規模が異なるといえばそれまでですが、仙台厚生病院は「スタッフに分かり易く、何をすべきかメッセージを発信している病院」のように思えました。
次回、仙台に行く際には、この辺りを深く掘り下げ、またインタビューをしたいと思います。(文責 溝口博重)

仙台厚生病院 http://www.sendai-kousei-hospital.jp 

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プロフィール
目黒泰一郎先生
昭和22年生れ。東北大学医学部大学院を卒業。 東北厚生年金病院循環器科医長、仙台社会保険病院循環器科部長などを経て、2001年から厚生会副理事長・同病院長兼心臓センター長に就任。
現在、厚生会理事長と勤務。