医桜通信
第8回 電子カルテ運用システム『デュアルシステム』とは?
2011年12月7日 12:44 PM
院長の小沢忠彦先生◇電子カルテ運用のコツは「医師が医療に集中する環境を創る事」
今回、小沢眼科内科病院の電子カルテについて、取材するにあたり、小沢忠彦院長、総務課長の石井誠一氏より話を伺った。
「平成13年の病院の新築移転のタイミングで電子カルテを導入しまして、昨年に新たにシステムを入れ替えましたが、今年一年間、システムトラブルは0件です」と電子カルテの管理を担当している、石井課長から自信が感じられた。
電子カルテの運用開始より10年の蓄積がある事、それらの蓄積からシステムの効率化が図れている事、新しく導入した富士通のシステム支援が良くできている事、また電子カルテ運用の担当として専任者(石井課長)がいる事、などが理由として挙げておられたが、小沢眼科内科病院式・電子カルテ運用方式である『デュアルシステム』が現場運用の最大の工夫であるといえると思う。
『デュアルシステム』の内容は極めて分かり易く「外来時に医師のほかに、クラーク(医療秘書)を一名つけて、診療時に医師に代わり、電子カルテ入力をする」といったものである。もちろん一台のパソコンを共有しては逆に効率が悪くなってしまう為、写真(図1)のように、医師用のパソコンとクラーク用のパソコンがあり、これをCICDシステム(Clerk Input and Doctor Confirmationシステム、クラークが入力するものを医師が確認をして業務をすすめるシステム)によって、双方が同じ電子カルテを操作できるようにしたものが導入されている。これにより、医師はクラークの入力を確認しつつ、必要であれば自身で操作して診察を行う事ができるのが特徴だ。
図1
小沢忠彦院長は「診療の効率化を図るには、医師には診察に集中してもらった方がよい」という方針と、米国では医師にパソコンを触らせない方がよい(ミスが多いとの事)というデータがある事から、今のシステムの開発を決めた」という。
さらに「若い医師はともかく、年配の医師は電子カルテの入力に対して、苦手意識を持ってしまう。私自身もパソコンが得意ではないからこそ、クラークの代行入力は非常に有難い」と小沢院長はクラーク導入のメリットを指摘する。
また患者の意識調査に於いて病院で一番ストレスを感じる時は『診察後の会計までの待ち時間』とのデータは様々な病院で報告されているが、『デュアルシステム』の導入により小沢眼科内科病院では診察中にクラークが入力をしている為、診察後に待つことなく会計対応できるとの事。「当院には待合の椅子が少ないのは、そういった理由がある」と話をする。確かに、私が訪問した日も、1日外来800名を数える病院ロビーには、会計待ちの患者の姿はほとんどなく、待ち時間短縮の効果が感じられた。
◇『デュアルシステム』のコストは?
コストには、イニシャルコスト(導入費)とランニングコスト(運営費)の2種類があり、今回、双方について、石井課長から話を伺えた。
まずイニシャルコストについては、ディプレイが2台との事もあり、電子カルテのライセンス料が2倍になっているとの事である。石井課長からは、同じ操作を2台のディスプレイでしているだけなので、1台分でいいのではないか?との話もあり、この点については交渉の余地があるように感じられる。
ランニングコストについては、電子カルテの運用責任者である石井課長の活躍もあり、年間で1000万円弱との事。運用コストだけで3~4000万円ほど掛かっている医療機関が多い中、専門の人材の配置により大きな経費抑制ができている。電子カルテの運用責任者として、診療情報管理士を雇用する病院も増えているが、コスト意識を持って業務に取り組める人材をどう集めるのか?というのも今後の病院の課題といえよう。
肝心の『デュアルシステム』のクラークについてだが、新たに人員を採用している訳でなく、人件費の増加はほとんどない、という。基本的には、これまで受付業務を行っているスタッフにクラークに回ってもらっているという。これは受付や会計業務が電子カルテの導入により簡易効率化したことにより、手の空いたスタッフに入ってもらうという形でスタートしたとの事。
現在は、外来の診療室7室に対し、10名のクラークが勤務している。教育については、当初は先輩クラークと二人で業務を行い、約半年ほどで一人担当をするといった流れで教育を行っているという。またクラークの仕事については、院内スタッフで3~4年程度で交代している。
「通常の病院は、お金にならない、とこうしたスタッフの雇用に否定的ですが、医師が集中して診察できる環境を創る上で必要なスタッフ。それだけの仕事をしてもらっています」と小沢院長からクラークへの信頼も厚い。
◇取材者の溝口より
小沢眼科内科病院に初めて伺ったのは、今から5年前になります。
電子カルテについて、検討している医療機関の話を聞いている中で、まったく次元の違う、どう効率的に運用するのか、という取組をしている病院が在ったことに驚いた事を覚えております。
今回、改めてお話を伺いまして、未だにその取組が先取的であり、かつ改修を重ねて、より上位の仕組とされている事に驚きました。電子カルテの導入費用は、一昔に比較すれば、かなり安くなったとはいえ、まだまだ億単位のコストが掛かります。そういった意味では、導入後の運用にあたってのシステムの検討として、『デュアルシステム』は大いに選択肢として「アリ」なのではないかと思います。
ご興味を頂けましたら、是非、コメント・メッセージを頂けましたらと思います。
【病院紹介】
医療法人小沢眼科内科病院
http://www.kozawa-ganka.or.jp/
1909年創設の100年続く病院。
年間外来患者数23万人(系列診療所含む)、手術件数8,000件以上の国内屈指の眼科専門の医療機関となります。
順調に業績を伸ばしており、現在は1病院3診療所体制で医療提供を行っています。
最新医療の提供を理念としており、事実、国内トップクラスの眼科治療及び、糖尿病に特化した生活習慣病治療を提供する病院です。
私も何度もお伺いしておりますが、今回の電子カルテの事を含めまして、眼科医でなくとも、一回、見学に行く事を推薦したい病院です。