医桜通信
第9回 クリニックの救急医療~川越救急クリニック~
2012年3月22日 3:31 PM
第9回 クリニックの救急医療~川越救急クリニック
昨年、新小文字病院の救命救急部の長嶺貴一先生にご紹介頂きまして、院長の上原淳先生と知り合いまして、その取組や考えがもっと広がらないかと思っておりました。
先日、改めて、川越救急クリニックの上原淳院長先生にインタビューをさせて頂きましたので、医桜の会員の皆様にご紹介したく思います。
上原 淳先生
上原Dr>家が本屋なので、客商売を近くで見る機会が多かった事もあり、「他人の人生に関われる仕事」をしたいと考えていました。その時、考えていた職業は3つありまして、医者、政治家、学校の先生。
文系科目が大の苦手だったので、選んだのは医学部に行って、医師になる事でした。
元々は心臓外科医になりたいと思っていたのですが、指導される先生や環境などを考えまして、診療科は麻酔科を選びました。2~3年で心臓外科に転科しようと考えていましたが、麻酔科医をやってみると主に術中の全身管理が仕事で、生化学や基礎などの知識が必要で、改めて勉強をすることも面白く、結局そのまま指導医まで取得してしまいました。しかし指導医になってしまうと、麻酔科は患者さんの予後には大きく影響しないことが多く、せっかく勉強した知識をもっと患者さんのために使いたいと感じまして、一転、集中治療や救急の世界に興味を強めました。
北九州の病院で二次救急を経験させて頂いたのですが、感じたのは「救急医学を系統だてて勉強してきた医師がいない」という事でした。各診療科の先生が、救急搬送される患者さんの治療にはあたっているのですが、各専門科目に軸を置いており、現在でもほとんどの二次救急病院の救急担当医には全身を診れる医師が少ないと思います。
独学で二次救急をやっていても限界がある、三次救急でしっかりと救急医療を学びたいと思い、38歳の時に埼玉医大総合医療センターの高度救急救命センターに移りました。
実際、三次救急を経験して、非常に面白いと思いました。一つは、救命救急はチーム医療だという事。そして、経験を積む中で救急を取り巻く社会の形なども見えてきました。それと、二次救急では、救急の専門職が現場にいない事が多いという事も実感をしました。
一時期、「たらいまわし」という言葉がメディアを賑わせましたが、万遍なく、全身を診れる医師がいない事に起因しているように思います。
救急クリニックはテストケース
なんとなく全身が診れる医師に、ニーズがないだろうか?と、救急をテーマに開業してみようと思ったのが、川越救急クリニックです。
正直、開業1年目はニーズがなかったか、と思うくらい患者さんが少なかったですが、去年の夏くらいから徐々に救急搬送が増えまして、今年は1月137件、2月99件の救急搬送を受けております。(注:診療は金曜~月曜の4日のみ)
埼玉の川越周辺は、救急搬送患者数が増えている一方で、救急告示医療機関数が減少してきています。救急医療はなかなか採算が合わず、やればやっただけ赤字になるようなケースもたくさんあります。
川越救急クリニックも、輪番に入れてもらうだとか、救急告示だとかを貰えると経営的にも助かる(4月から救急車1台あたり2000円付くようになります)のですが、今のところ、医師会や行政が参加させてくれそうにありません。
溝口>救急告示とかは県の許認可だと思うのですが、許可が下りないのですか?
上原Dr>今のところは(笑)。24時間365日やらないとダメ・・というのが県の言い分です。そんなふうに敷居を高くするからどんどん救急医療から病院が撤退してるんじゃないですか?とか色々と言ってはいるんですが・・・是非、ご支援ください。
院長は経営者だという人がいますが、私は多少赤字でも社会貢献をしているならOKじゃないかと思っています。継続するのは難しくなってきますけど・・(笑) 社会を良い方向に変えたいという想いがあります。
一番大変なのは、やはり資金面のやり繰りではありますが、感謝の言葉を掛けてもらえると、役に立っているんだと実感がわきます。
溝口>今後の構想などあれば、お聞かせください。
上原Dr>麻酔科医をしている事、術前術後に患者さんと話をよくしていましたが、4人部屋などでは「私は、あんなに先生と話をしていない」と言う患者さんがいらっしゃいました。医者は言葉が足りない、と言いますが、もっと患者さんと話さなければならないと思います。
EBMを重視した医療と言いますが、結局、患者さんの知りたい事を説明し、納得してもらう事=「納得の医療」が大事なんじゃないかな、と。
私は医師は科学者ではなく、アーティストだと思っています。
マニュアルやEBMを重視する方が多くいますが、たかだか100年程度の医学。今から100年先になったら、「こんな治療をやっていたんだ!!」、と笑われる事もたくさんあると思います。それなら、難しい事をわかった振りで主張するより、患者さんに納得して頂く医療が大事じゃないかと。
あと同じように、救急でクリニックを開業したいという先生もおり、全国にこの輪を広げていきたいです。そうしたら日本の1次2次救急はかなりの部分解決されると思うんですけど・・。
それと保険上の評価を、現状の名目評価ではなく、しっかりとしてもらいたいです。
たとえば現状ですと救急告示を受けている病院でも年間数十件しか救急車搬送を受けない病院もありますが、告示さえ受けていれば保険点数上の優遇があります。我がクリニックは、今年は1000件前後の受け入れになると思いますが、保険点数上の評価は全くありません。現状の実績をしっかりと評価して欲しいです。
あと川越救急クリニックの構想としては、やはり私自身が麻酔科医なのでオープンクリニックにできればと思っています。外科医の先生は開業してしまうと、オペをする機会が減ってしまいますが、非常に勿体ないと思いますので、我がクリニックに手術室を作って、そこで私の麻酔下で開業した外科医の先生方にオペをしてもらえればと考えています。
インタビュー後記
非常に革新的な取組をしているクリニックだと思います。ほかに、私は救急クリニックと言うものを知りませんし。
私の実家が川越の隣の狭山にありますので、特に思うのかもしれませんが、確かに夜間救急を受け入れてくれる医療機関が人口の割に少ないな、という印象を持っています。そんな中で、月100件を超える救急搬送を受けてくれる川越救急クリニックの存在は、地域では非常に大きな存在だと思います。
上原先生から面白い話も聞きましたが、鼻にビー玉を詰めて取れなくなった方が遠方からわざわざ1時間かけて救急車で運ばれてきたケースがあるそうです。埼玉県内には耳鼻科の夜間救急の告示している病院がない為、川越救急クリニックまで来たとの話ですが、わずか30秒の処置で摘出でき、患者さんのご家族は1時間以上かけて帰ってもらったそうです。どこでも対応できそうな処置ですが、専門じゃないから受けない・・という救急医療の実態の一端ではないかと思いました。
週末の夜間救急は、基幹病院ですら人員が手薄ですので、そういった意味では社会的意義は計り知れず、もっと評価され、地域から支援されてもいいような気がします。上原先生の活躍をもっと大勢に知ってもらい、まずは救急告示機関になれるよう、医桜でも支援をしていきたく思います。