医桜通信
【医桜】三浦祐一理事長に伺う新しい介護・看取りの在り方~アンミッコの取組~
2014年12月9日 12:25 PM
【社会福祉法人天佑 理事長 三浦祐一氏】
久々の医桜通信の更新です。今回は、医療ではなく、介護領域、そして看取りをテーマに、昨年創設されましてより、話題を集めております、特別養護老人ホームアンミッコを経営される、三浦理事長にお話を聞いてきました。地域包括ケアの観点からも、医療者も介護の現状を知るべきだと思いますし、そういった意味では、非常に先駆的な取組をしている施設ですので、是非ご参考頂ければと思います。
まずアンミッコについてご紹介します。【外観写真】
‐法人名:天佑とは?
“天の助け”“神さまからのおかげ”という意味です。
‐アンミッコとは?
イタリア語で“ウィンク”という意味であり、利用者様とスタッフがウィンクひとつで通じ合えるようなホームにしたいという思いがあります。
‐基本理念
「輝きある人生のために」
これは、施設名のアンミッコ(ウィンク)の中には小さな光という意味もあります。
利用者様、そのご家族、働くスタッフ、地域の皆様一つ一つの光が集まり、大きな輝きとなり、煌めき続ける場所となることを目指します。
‐基本方針
「ここで暮くらす人たち」に輝いていただく
「私たち自身」が輝いていく
「地域」で輝いた存在になる
「社会」に対し、輝きを与える
この施設は、人生の最後を過ごす場所であるからこそ、利用者様には輝いていただきたい、またここで働くスタッフも笑顔で過ごせる場所、誇りを持って働いてほしいという思い、アンミッコの運営や天佑を通して社会に貢献していくことです。また、地域の方々にもアンミッコの存在や活動を知っていただき、また地域の方々のニーズにあったセミナーの開催なども行っています。
‐10の信条
ここで暮らす人たちに輝いていただく
①ご入居さま・ご家族さまの思いを大切にします
②施設や職員の都合による時間スケジュールは設けません
③プロフェッショナルとして、ご入居さまの体調管理には十分気を配ります
④「価値観」や「選択肢」を大事にします
⑤「生活の喜び」と「感動」を提供します
私たち自身が輝いていく
①「笑顔」と「あいさつ」はすべての基本です
②ご入居さまの「笑顔」は私たちへの最高のご褒美
③よりよいケアを提供するため、チームワーク重視します
④最高のケアを提供するため、自らを磨きます
⑤夢の実現のため自分自身の目標を定めます
これらは、スタッフがどのようにすれば達成できるか、スタッフ同士が考え出した目標です。
‐施設について
施設については、デザインに力をいれました。当施設は看板がありません。入口に表札があるだけです。特養の概念を変えたいという気持ちもありました。きれいに作った理由は、3つあります。1つ目は、家をイメージしているため入居者のため、豊かな人生をおくってもらいたい、ここに住んでいるという誇らしく過ごして頂きたいからです。ご親族なども呼べるような環境にしたかったからです。
2つ目は、ご家族のためです。自分の親を入所させることは後ろめたさや心苦しさがあると思いますので、ここならご両親を預けられると思っていただけるようにしました。
3つ目は、良いスタッフを採用したいからです。ここでは働きたい、良いスタッフを採用することで、いいケアの提供もできると思っています。
なるべく病室や施設のように見えないようにしています。外観もマンションのように見えたら正解だと思っています。
‐設備について
施設全体、においへの配慮をしています。トイレや汚物室を開けても便臭などはしません。食事のタイミングも皆様利違うので、においに関しては気を付けています。
空調設備は、調湿機(モイストプロセッサー)を使用しています。それにより、夏は除湿、冬は加湿を施設全体で行えるようになっています。ご高齢の方は肌が乾燥しやすいので、うるおいが保てるようになっています。
電子カルテを使用しており、すべてのチェック表や申し送りなどもできるようにしています。また家族からの記録開示なども電子カルテを使用していることで容易に希望にそって行えるからです。また、働くスタッフも電子カルテを使用することにより、見守りながら記録できます。
入浴には、2種類の機械浴を導入しています。これらを使用することにより、麻痺側に合わせ機械を動かし、移動し入浴しやすいようになっています。抱きかかえて介助することは、無理に抱きかかえられる苦痛を伴いますし、介護職スタッフの身体的な負担がありますので、無理のない入浴の介助が行えます。
‐食事へのこだわり
きざみ食やペースト食は提供していません。きざみ食は水分が飛び、ムセや誤嚥の可能性が高まり、嚥下機能が低下した方には向きません。またペースト食は、ペースト状にするため、水分量がたかまり、全量摂取するのが難しくなり、摂取カロリーが減ってしまいます。かむ力・飲み込む力を考え、状態にあった食事形態が提供できるよう表を作成し、その方々にあった形態を提供しています。また、見た目も重要視しており、再形成技術およびスチームを利用し、味・見た目を損なわない食事を提供しています。これは1日3食全て行っています。
また食事提供時間は2時間枠を設けており、その中で利用者様がご希望する時間に摂取して頂けるようにしています。
‐施設イベント、スタッフの活動について
年間を通した施設でのイベントです。さらに、別で各ユニットで予算を設けており、その中でイベントの企画やそれぞれの方へのケアやご希望に添えることを行っています。ある事例で、「そうめんを召し上がりたい」と言われた利用者様にスタッフがそうめんをゆでて提供したことや「曾孫さんに会いたい」とおっしゃっていた利用者様へサプライズパーティーを企画し、ご家族を招待するなど様々な活動を行っています。また、医師の指示範囲内であれば嗜好品の提供なども行っています。利用者様のためなら何でもする、できるようにしています。
‐人材教育について
教育制度は、看護師の教育制度ラダーを元に介護職の教育プログラムラダーを作成しました。グレード1(初級)から始まり、グレード2(中級)指示を出してもらえばできるスタッフ、ここに到達するまでに約1年です。グレード3(リーダー)新人指導や指示だしが出きるスタッフ)までがあり、ここまで到達するのは約5~6年です。スタッフの中でグレード3まで達成したスタッフは、リーダーになりますが、ポジションにも限りがあります。もし、他施設への転職希望の場合は、アンミッコの介護を他施設で提供してもらいたいという気持ちで送り出しています。またブランディングの一つになりますが、当施設の教育プログラムを終了したことが、次の施設でも即戦力として働けるスタッフだと履歴書見ただけで分かってもらえるようになればいいと思っています。
また、1年に2回評価を行い、面談を通してスタッフのスキルアップの導きも行っています。これは給与への繁栄につながる評価ではなく、目標にむけた行動や課題の見直し、人間力の強化も含まれています。
教育プログラムについては、①座学②実践③グループワークです。
育成は必ず座学から行っています。情や思いだけで提供されがちなものを論理的、エビデンスにそって行っていけるようにしています。研修ステップは、必ず座学からです。当施設でのやり方をしっかりと学んでいただきたいからです。スタッフ採用には中途採用者もあり、他施設の方法などとの違いやこうした方がいいという思いがあるが、必ず座学から学び実践に生かしてもらうことで、根拠立てて理解し実践してもらっています。
グループワークも行っています。均一したサービス提供のためです。グループワークを通して、リーダーシップが見えてくることやそのリーダーを通してメンバーの知識や理解が統一されていきます。
‐職場環境について
フラットな環境にしています。私も立場上理事長ではありますが、みな「三浦さん」と呼びます。利用者様にとって私たちの役職など関係ありませんので。
また、どの職員も名刺を持っています。パートの介護職も持っています。
‐日々のケアに関して
排泄ケアにおいては、利用者様が入所する前にご本人やご家族から24時間のライフスタイルの情報収集を行い、排泄パターンをよみとり、トイレ誘導しています。
入浴に関して、当施設のストレッチャー機会浴の利用率は10%程度です。これは他の施設に比べても低い利用率です。よく介護施設でみられる入浴日を決めることは、多くの利用者様を短時間で多く入浴させようとするため、露出の多い状態での待機などが強いられ、スタッフの負担にもなっています。毎日利用できるようにすることで、入浴に関する双方の負担は軽減されています。また、入浴に関しては、流れ作業にならないよう1スタッフ1利用者様でケアが提供できるようにしています。その中で、利用者様のADLや皮膚状態が見て分かる他、その時間の中でコミュニケーションもとれるのでとても貴重な時間となっています。
‐看取りケアについて
最後が近い方はご家族も付き添われています。時が近くなると、食事が出来なくなる、目が開かなくなるなどしますが、その中でも利用者様の聴覚や嗅覚は最後まで残っていると言われています。ある利用者様でコーヒーが好きな方がいらっしゃったので、コーヒーを部屋で入れ、香りを楽しんでいただくなど行っています。そのような関わりの中でご家族から「コーヒーの香りに反応していました。」などのお言葉を頂きました。
私たちは死を隠さないようにしています。10人1ユニットで生活しているため、他利用者様も家族同様ですので、みんなでお別れ会を行い、送り出してあげるようにしています。また、その時は思い出のアルバム作成し、どうやって最後の日々を過ごしていたか様子がわかるようにスタッフもコメントを添えて、ご家族へ提供しています。
また、看取りのケアを通し、スタッフの成長する姿を実感します。どういうケアをしてあげるか、してあげたかったかという思いが個々にあり、より提供できるケアの質が上がっていくと思います。
施設説明と見学をしたうえで、ここからはインタビューにお答えいただきました。
①天佑、アンミッコの立ち上げの背景はどのような経験からですか?
実家が病院経営をしており、運営に関わっていました。その後、介護の企業にて勤務をし、150施設以上を見学また特養やデイサービスなどの立ち上げを行っていました。
直接経営したいと思ったきっかけは、自分の祖母が脳梗塞で倒れ、治療が終わり、療養が必要であると思い、実家が経営する病院へ入院しました。しかし、入院した祖母を見ると一日同じ服で食事も排泄も同じ場所で行っている姿をみて、療養が必要な人が住む場所ではないと思いました。
また、今までの経験を通して、短期で終わる施設ではなく、長期的に最後まで寄り添って介護ができる施設を作りたいと思ったからです。
②ご入居者のために、利用者様中心のスケジューリングに関して、危機管理やスタッフ管理などはどうしていますか?スタッフがそうめんをゆでて提供するなどのお話もありましたね。
すべてはご利用者のために。入居する方の目線に立った介護をすることです。
自分が入所したいか、自分の家族を入居させたいかという施設を作りたいところにしたいです。
ユニット型ではユニット内の調理が認められています。あとは、利用者様への気持ち、要望に対しスタッフが何をしてあげたいかという思いを重要としています。
他にもお墓参りしたいという利用者様のためにスタッフが同伴したいという希望があり、
「行って来い」と送り出しました。その時のスタッフのカバーなどは配慮し、一緒に墓参りに行った利用者様から「よかった、これで安心したよ。」と言っていただけました。
③そのようなケアを通しての利用者様、ご家族の反応はどうですか?
時に難しい事例もあるが、最終的にご家族が「ここに居てよかった」と言ってもらえるようにしていきたいと思っています。
④力を入れているサービスはありますか?入浴や食事などの配慮についてお話をしていただきましたが。
全部において、最高の介護、トリプルAを目指しています。
食事、排泄、入浴、余暇などすべてですね。全てにおいて最高を目指す、それを目標にしていくことで、動けるものだと思います。
⑤スタッフの人材採用についてですが、昨今介護・医療の人材不足から面接だけを行う施設も多いかと思います。アンミッコでは、適正テストなども導入されているそうですね。
一般企業としてみたら、採用説明会をして、試験があるのは当たり前のことです。
当たり前のことを当たり前にやるだけではない、さらに上を目指す、質を向上させるためにも自分たちの理想、それを目指す人に入ってもらいたいので、YGテスト(性格診断)を導入し、小論文や面接2回を設けています。YGテストでは、どういうタイプの性格をしているかが分かるようになっています。わざとハードルをあげるようにしているのですが、それはスタッフには選ばれた人という認識でいてもらいたいからです。説明会を通して当施設のことを理解してもらい、そこで面接にいらっしゃるということは、アンミッコをある程度理解した方がきます。さらに面接の中でも十分にアンミッコの介護の在り方、スタッフの思いなどお互いが理解した上で一緒に働くことが大切だと思います。
⑥記者がインターネットで「特養」というキーワードを検索し、いくつかのホームページを見ました。その中で特養と老人ホームとの比較や、ネガティブな対比しているサイトを見受けられたのですが、どう思われますか?
(とあるウェブサイトで、老人ホームはスタッフ配置やリハビリ・医療行為の介入が積極的であり、特養ではあまり介入しないなどの見受けられました)
特養はあくまで家です。リハビリが目的の入所ならば老人保健施設なりの施設へ行っていただく必要があります。そのあとの特養です。
特養の在り方として、日常生活に必要な支援やリハビリは行います。自分で杖をついて歩行をする、トイレ移動をすることに必要なことは介入するということは行います。
‐有料老人ホームとの対比に関しては、十分な特養の機能に関したしっかりとした情報が提供されていないようにも思えました。
そうですね、そのように書かれても仕方ない施設が多いのは事実です。
また、医療行為に関しては積極的希望であれば、特養ではなく療養型の医療機関の受診なり、治療であると思います。特養は、生活の場であるということです。必要なインシュリン注射や酸素の管理などが必要であるが、その中で、普通の生活がしたい方々がくる場所であると思います。病院から特養入所に関して、必要な医療行為を行った事例(胃瘻造設)に関しても、帰る家=特養であるので、受け入れています。いかに日常生活を送れるかということが大切で、健康状態の維持が目的です。利用者様の健康管理に力を入れています。
⑦現在、待機の方々は何名いらっしゃいますか?
180人です。特養の入所待ちは5~6年と言われています。なので、前もって入所希望出される方もいらっしゃいますので、より多くの方がお待ちではないかと思います。
⑧全国でいうと現在50万人の特養の待機利用者様がいると言われていますが、
今後の天佑の活動や三浦さんの今後活動は?
個人としては、先ほどの有料老人ホームとの話もあり、上限がないサービスを提供したいと思っています。premiumなサービスですね。特養は介護度3~5の方がメインとなるが、介護度1~2の方々も利用できる裾野を広げたサービスの提供が必要なのかなと思っています。
ですが今は、この特養の良いスタイルを作ろうと思い、3年が経ちで出来てきたと思っています。なので、もう1~2建の建設を出来たらいいなと思います。ただしチェーン展開は考えていません、質を大切にしたいので。特養は空母だと思っていて、ここをちゃんと整備していけば、この先のグループホーム、ケアステーションなどは立ち上げられていくのではないかと思っています。
あまり話していませんが、100年単位で生き残れる社会法人でないと、事業ではないと思っています。なので、地域ニーズにもこたえられるようにしたいです。
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三浦さんは、基本方針の一つ、「地域」で輝いた存在なる の活動の一つとして、
実際にアンミッコの研修室を利用して、地域の方々へのセミナーの開催もしていらっしゃいます。またスタッフの中でセミナーが出来るような人材育成も力を入れてらっしゃいます。地域の方々へも特養施設のことや介護保険のお話、または認知症などのセミナーもやっています。徐々にではありますが、地域の中に知ってもらうことが重要だと思っていますと話していただきました。
【文責:杉本】