医桜通信

【医桜】愛され指導医 志水太郎先生に聞く「医育と総合診療」

2015年1月5日 12:01 PM

 

 

 

闘魂4

○志水太郎先生 ご経歴○

2005年、愛媛大学医学部卒業し、江東病院,市立堺病院にてチーフレジデントとして勤務。

2008年に関西若手医師フェデレーションを設立し、関西エリアの若手医師の情報共有、文化交流ができるよう仲間若手医師の多施設ネットワークを仲間と立ち上げ、現在は相談役として活動。

2011年に米国エモリー大ロリンス公衆衛生大学院MPHを修了し、同時にカザフスタン共和国ナザルバイエフ大学客員教授、米国カルフォルニア大学サンフランシスコ校臨床研究員として活躍、12年に豪州ボンド大MBAを修了されました。その後、練馬光が丘病院総合内科ホスピタリストディビジョンチーフとして勤務した後、米国ハワイ大学に内科レジデンシーで渡米。2014年に日本で2つの総合内科・後期研修プログラムを立ち上げるために帰国。そのひとつ、JCHO東京城東病院では総合内科を立ち上げとともに、同時に世界にどこにもないようなオリジナルの後期研修(アドバンスドレジデンシープログラム)の立ち上げを行っている。総合内科の立ち上げとしては募集開始後3週間で15人の医師が全国から集まるなど、リーダーとして強い求心力も持つ。

著書-『診断戦略』(医学書院)、『愛され指導医になろうぜ-最高の現場リーダーをつくる』(日本医事新報社)

『TdP(Teaching delivery Project)』を通して、学生・研修医を対象にデリバリー型教育事業を展開し、総合診療内科立ち上げにあたっては、新たに15人の医師を同チームメンバーが集まるなど、多方面に活躍されると共に強い求心力を持つ。

 

 

今回、インタビューにあたり、臨床医においては患者治療、症例研究、手術件数、オーバーワークなど時間と業務に追われているイメージが強いが、施設の垣根を越え、多方面に活躍し、教育に力を入れている志水先生の動力はどこにあるのか、また著書より穏やかな会話が随所に例として挙げられており、求められるリーダーの人柄や人間性を書かれた理由などを伺わせて頂きました。

 

Q1著書の出版や海外での勉学及び勤務など活躍されておりますが、将来的なビジョンは何ですか?

社会の中で何が出来るのか、ニーズは何か、という2つを基本に将来的ビジョンを考えています。自分の場合臨床医の業務が楽しいから臨床の仕事が自分の毎日の基本ですが、その延長に教育があり、平和があります。ミクロとマクロの視野を持ちつつそのバランスを保つことが大事だと思っています。より大きい行動半径の仕事をするようになるとミクロの仕事ができなくなりますが、ミクロ、つまり日々の臨床現場が基本的な立ち位置の自分としてはどんなフェーズに来ても、ミクロの自分の立場をできるだけ殺すことなくどちらの視点も行き来できる医師でありたいと思っています。

 

現時点では臨床、教育、研究ということが自分の日々の生活の軸です。臨床教育は臨床現場に主に包含されるものですので、臨床現場での教育、つまりベッドサイドの教育の質と量を更に高めて、さらに再現可能な形にdisseminateできるようにしたいということが、私の教育についての基本的考え方です。その先にあるものとして、世界をリードする教育システムを作ることになると思います。1つのわかりやすい形としてはそのようなモデルを擁した医学部があります。医学部のようなハードなものか、またはその教育システムだけのソフトか、なにが最も理想的な分配システムなのかは分かりませんが、試行錯誤しながら世界をリードする医学教育の共有の場の実現に貢献したいと思っています。

 

現在は日本のどこにもないような総合内科の研修システム・学生教育のシステムを市中病院で創りつつありますが、今後については1年後(獨協医科)大学で総合内科を作り、大学発の教育にもチャネルを増やしていく予定です。ポジションとしては、学生教育・臨床教育・総合内科の責任者です。現在は市中病院の総合内科、次は大学病院です。大学は国の医学教育の中枢にあって、基盤が作れる場所ですし、総合内科的にも診断・医療マネジメント(医療の質)・教育の3つが総合内科的な内包される領域だと思っています。こういう総合内科のモデルを提示しているところはない一方、大学はそれができる器と思います。個人的には診断についての本も書きましたし、診断の思考様式と教育について深めていきたいと考えています。

 

Q2そこまで、医学生にむけての教育に力を入れるのはなぜですか?

医師教育が好きだからです。医学生に限らず研修医教育に携わることも好きですので、卒前・卒後もどちらも好きです。オフィシャルな形としては今までは主に研修医教育に重きを置いてまいりましたが、これからは、卒前教育にもかかわりたいと思っています。まだ免許を持たずに医師としての振る舞い方を学ぶことができる医学部は、医師にとってのいわば初等教育ですので、その時点教育に関わることは学習者個人個人の医師としての人間形成に貢献できることも大きいと想像します。また、現行の医学教育では実践的な臨床に即した医学教育が必ずしも受けられていないという傾向が顕著ですので、新たな卒前教育モデルを提示したいという考えもあります。

 

Q3今活動している闘魂外来も、モデルの一つですよね? 医学生にも臨地実習はあると思いますが、設立の背景は何ですか?

他国における医学教育との違いでしょうか。自分が学生時代にイギリスに留学して、学生教育の違いを学びました。「今、患者さんが目の前にいたらどうする?何をする?」ということをリアルに問われます。自分の頭の中からどう動くのかを出す、というのが大事になってきます。本を読んだだけの知識だけと、実際に手で動くのとは違います。考え方をトレーニングして、知識をいかに使うというところが違うといういい方ができるかもしれません。このような訓練は通常前線に出る前の医学部で行う必要があると考えたので、実地型医学実習の闘魂外来をスタートさせました。評判は地域医療活性にも役立っているようで、上々です。

 

Q4先ほどのお話にありました現在行っている総合診療科の立ち上げをについて、背景やニーズはどこからですか?

ニーズは、国家的なニーズ、総合内科医の需要とその専門医資格の取得ができるようになったということです。何より国民のニーズもあります。今、診療科目間や医療機関間での患者さんのたらい回しが問題になっています。なんでも診てくれる医師がいてほしいというニーズです。このように国と国民のニーズがあって、現在も総合内科を創設しつづける動きがあります。

私は今回着任した東京城東病院での設立背景については、JCHO(独立行政法人地域医療機能推進機構)の目的である地域医療に貢献するというmissionがあり、その中核を担う部署として総合内科をつくることになりました。その土壌として、既存の内科が専門分化しすぎず、既に在籍されている他科医師の理解もあり、また何よりトップがゴーサインを出して様々な立ち上げに関わる問題点に前向きに助けて下さっていることは総合内科が無事に誕生する上で重要な要点となりました。

 

Q5病院組織では、診療科目ごとの専門医志向が強いと思いますが、今後の総合診療内科はどのような体制になるのですか?

専門医と聞くと、その医師の専門分野や目的は分かりやすいですよね。大抵は臓器やシステムにフォーカスを絞った領域の臨床(研究)を極めていくというスペシャリスト達です。一方、ひとつだけの臓器考えでない医師達もいて、そういう人たちは総合内科などの道に進むと思います。

総合内科は、「振り分け科」と言われるなど揶揄されていましたが、基本的な立ち位置はそうではないと自分は理解しています。内科の症例は診断も治療もその後も、軽症も重症も、急性期も慢性期も、医学的症例も社会的症例も、全て診る方針です。一方、専門的手技や特殊な疾患治療など、専門家の助けが必要なものは全て抱え込まずに専門医と併診したりします。基本的にどんな患者さんでも受けて診ます。また、セッティングによっては内科ですが骨折なども診ます。そのような多様性やフレキシビリティを楽しいと思ってもらえる人が総合内科医になればいいと思っています。

 

Q6病院組織には、各診療科目・専門医だけで構成されているところも多いかと思いますが、難しさなどはありますか?

開設の立ち上げは気をつけることも多いと思います。専門医で成り立っている組織の中に入っていくのは時に難しいですよね。今いる東京城東病院は、その意味で立ち上げの障壁はありませんでした。私が次に行く大学は専門家集団の集まりですが、そこでも専門医の先生方のお力と指導を頂きながら、総合内科が最大限に力を発揮できて、かつ専門医の先生がより専門性を発揮できるような環境を協力して作っていきたいと思っています。細かい点ではクリアすべき問題もあると思いますが、必ずできると思っています。

 

Q7総合内科創設にあたり、地域クリニック(診療所)の反応など対応はどうしていますか?

日本はどの病院にもフリーアクセスなので、クリニックでもより重装備の病院にでもいきなり来ることが可能な状態です。より高次の医療を提供できる基幹病院はその役割を明確にするため、病院によっては他院からの紹介状が必要な病院もよくあります。地域のクリニックにとって、より高次の機能を持った病院が新しい部署を作ることは関心事項だと思います。特にプライマリケアも広くカバーする総合内科の登場は、ともすれば地域の患者さんを広く基幹病院に集めることになる事態もあり、より前線のクリニックに対してかかりつけ患者が基幹病院に移動しかねないこともあるからです。このような背景も加味し、とくに東京城東病院総合内科チーフの私の考えとしては、地域の開業医の先生方との連携を最大限に大切にしたいと考えています。患者さんにとって気軽に行けるのは病院ではなく開業医/クリニックですし、逆に入院や救急・高次診療が必要になった場合はその高次機能の持ち味を発揮できる余裕を担保しておくのが高次診療機関の役割だと考えています。そのため、病診連携の観点からお互いの長所をリスペクトしあって協調体制をひきたいと考えています。たとえば入院になった患者さんの医学的事項の共有などで一緒に勉強会をやるなど、いいですよね。病院側からすれば一方向の視野しかわからないため、開業医の先生方のニーズ、何より地域住民の皆様のニーズなども共有していきたいと考えています。ソフト面、ハード面でみんなとカバーし合える関係を作るためにも、こちらから地域に積極的にアプローチもしたいと考えています。・・・なんだか城東病院総合内科の所信表明みたいになってしまいましたね(笑)

 

Q8今後、この2つの総合診療内科の立ち上げシステムや組織をどのように広めていくのですか?

私にとって2つのシステムとして、現在は市中病院での開設であり、次は大学病院です。現時点でのプランは、この市中病院とその大学病院の連携を取りたいと思っています。そのために市中病院および大学病院の両方とも成功したモデルをつくることが目的です。組織の性質が異なりますのでアプローチも違えばあり方も違ってくると思います。それぞれが成功すれば日本中で成功する一般化されたモデルが提供できる可能性があるので、これは素晴らしいことだと思います。

 

Q9今までのお話の中で臨床医として、教育者としての活動をしていますが、今後の方向性は?

臨床医そして教育者として、医学生や研修医といると楽しいので続けていきます。臨床医は臨床医によって育てられていく、という専門職の宿命がありますので教えることは臨床医の仕事に内包されるものだと思います。今勤めている病院は、来春から研修医を含め医師が15人も一気に入る予定ですし、毎日全国から医学生が集結することも予想されます。看護師の教育システムも構築しつつありますし、いずれはナース版の闘魂外来も開く予定です。このように、病院としては教育を売りにしたいと考えています。

ナース教育について、ここで働いている看護師さんは数年大学病院などで勤務した中途採用の若手ナースも多いです。今後診療する医師も増えることもあり、勉強面や教育に力を入れていきます。

 

Q10著書の発行やセミナー開催など多岐に渡り活躍されていますが、周囲からの反応はどうですか?

「明日自分のキャリアが終わっても悔いがないように、毎日自分だけにフォーカスを当ててその日を生き抜く」というのが自分のミクロレベルでの方針ですので、実は周りのことは殆ど気になりません。

好きなことをやっているので、「社会と自分」という軸、そして信頼できる方のアドバイスさえ無視しなければ、あとはガンガンやればよいと思います。

著書やセミナーを通し自分の後ろには現にたくさんの医師や学生たちがついてきてくれていますし、今回の東京城東病院の総合内科の開設においても11月というメンバー集めには不利な状況にもかかわらず、3週間で全国から15人も集まって下さりました。これは私だけの力だけじゃなく、自分や他のメンバーたちと作り上げた結晶の輝きに集まってくれた人たちだと思っています。彼らの期待に応えるためにも、みんなの夢のためにも、ここで立ち止まってはいけないなと思っています。

新しいことをするとネガティブな意見は必ずでます。匿名での強い根拠がない意見を頂くことも稀にありますが、一方向なだけにこちらはフレキシブルに対応できないこともあります。なので、ご意見・ご要望がある方は是非直接ご連絡頂きたいと思っています。

新しいことを反対する人の中には、変化を恐れてヒステリックに振る舞う方や中には攻撃的な方もいらっしゃいます。私は著書「愛され指導医になろうぜ」にかいた“愛され”の方針なので、直接お話できる方にはお話を聞きに行きますし、匿名の意見に対しては、とりあえずシャットアウトせずに気に留めておきます。その意見の背景や関連していることを自分たちが考えるきっかけとなりますので、貴重な意見として受け入れていくことで、自分たちの成長の材料になります。思考の点で足りないことや配慮すべきことなどのヒントになることもあるでしょう。丁寧さや常軌を逸した対応をされた場合にも、対応はエレガントに行うことが方針です。こちらから戦闘態勢になることはまずありません。

一方、今回東京城東病院で総合内科を開設するにあたり、実は上記のようにネガティブ意見はほとんど出ていないのはスタッフの皆様の寛大なご理解があり感謝しています。もちろん前線レベルでは小さいことを挙げたら様々な不安や疑問がどのメンバーにも色々起こることは予想されますので、先日その疑問や業務上の新体制について対応するチームを作りました。

医療人口は多くはないので、助け合わないといけないと思っています。著書「診断戦略」の中にも記載しましたが、クリアーマインド(Clear Mind)、いかなる時も鏡のような水面の状態を保つことが冷静な医療人としての対応だと思います。難しいことなのかもしれませんが、お互いが気持ちよく議論や行動を進めていくためにはこういう風にしてやっていくしかないと思っています。

また、以前はパワハラなども経験しましたが、その経験があったからこそ気づけたこと、後輩との関係などをどうしたらよいかなどのヒントもあり、今につながっています。嫌な経験も明日の糧になるので、人生の出来事は捉え方一つだなと良く実感します。

看護師も医者も、他のスタッフも、忙しく不確定要素に満ちた医療現場ではストレスがかかるものです。ただそのストレスの矛先が患者さんに向かってしまうと本末転倒です。そのため、ストレスに対する反応という人間の心理的特徴を上手くコントロールする必要があります。ストレスを抱えているのは医療者以上に患者です。患者さんは身体疾患であっても、同時にメンタルにもダメージを受けているものです。時に一番弱いところを私たちに見せざるをえません。それにたいしての十分すぎる配慮が必要だと思います。

医学教育の観点からは、現在の卒前医学教育では必ずしも十分といえない部分がこの項のトピック、つまり倫理教育、コミュニケーション、ホスピタリティなどだと思います。医師免許取得後、スタッフや患者への配慮や行動の規範モデルの習得を学習者に促すのであれば、上級者が実際に現場における行動で見せていくしかないといけないですよね。現場教育だからできること、見せていけることだと思います。診察での丁寧さやベッドサイドでの丁寧さなども同様です。とはいえ、患者さんから見たら白衣を着ていれば学生だろうと医師10年目だろうとみな同じに見えます。だから、卒後だけでなく現場に免許を持って出る前の学生教育も大事なのです。今後の医学教育についてはそういうことも医学部や看護学部にも教育コンテンツとして徹底する必要があると思います。

 

Q11著書内で医師としての社会性やコミュニケーションについて取り上げた理由については?

患者さんのケアはチーム医療が基本なので、各医療職間でのコミュニケーションを大切にする必要があります。コミュニケーションはチームメンバーをつなぐ唯一のツールなので、大切です。医師もチームの司令塔的役割を担うことが多く、少なくともコミュニケーションのスペシャリストでなければならないと思います。そのコミュニケーションに大事なのがチームメンバーへのリスペクトだと思います。

スポーツでもそうですよね、誰かがゴールしてもその人一人の活躍ではなく、チームのサポートがあってのゴールですよね。もちろん、医師は指示を出すという面では中心にはなりますが、看護師は患者さんと常にいますし、前線にいますので、それは医師よりも内在的に一時情報が多いことを意味します。このようにそれぞれの職種の特徴があり、それは役割分担であって、そこをリスペクトし合うことが重要だと思います。

 

【記者所感】

取材を始めて直ぐに、志水先生の柔らかな物腰と口調が著書内の文章の雰囲気や優しさとがリンクしました。

何かを新しく始める者、変革の中にいる者は自身が抱えるメンバーをまとめ、率いる力が求められます。それと共に、対抗とする力に対し、真っ向から闘うのではなく、いかに歩み寄り、理解し合うかが大切であることが取材からもお分かりになるかと思います。また医療人として求められるコミュニケーションスキルは患者さんに対して優れていれば良いのではなく、医療者同士にも求められ、日々業務するには必要なものです。ですが、ここで悩む方々も多いのではないのでしょうか。このインタビューでの先生の考えや思い、言葉が少しでも解決につながるのではないかとも思います。

先生は長い歴史がある大学で活動を予定されていますので、今後の活躍も注目していきたいと思います。

(文責:杉本)