医桜通信

インタビュー 金澤信彦先生「勤務医のマネジメント、開業医のマネジメント」

2015年6月18日 11:42 AM

金澤Dr近影aa とよす内科クリニック 院長 金澤信彦先生近影

■医桜通信インタビュー 金澤信彦先生
2015.5.20 in とよす内科クリニック

■■■テーマ「勤務医のマネジメント、開業医のマネジメント」

■医師からみたマネジメントとはどういうものでしょうか?

▼金澤先生:勤務医時代はマネジメントされる側でした。マネジメントするよりも、診療部長とかにマネジメントされる立場でしたので、医師として看護師などをマネジメントしたいと思っても、その権限はなく手出しできなかったのが実情です。
例えば、昔の手術室や内視鏡室は定時の午後5時になると、看護師が帰ってしまうので、医者が代わりに入って看護師の仕事をしていました。普通なら、マネジメントして改善する必要があるのですが、それができなかったので、勤務医時代は病院のマネジメントについては、良いイメージは持っていなかったです。もちろん、亀田総合病院なんかは当時から優れたマネジメントのイメージを持っていましたが、特別な病院だけかな、と。

■開業されて、マネジメントする側になって、取り組まれた事はありますか?

▼金澤先生:まずスタッフの帰る時間を決めました。勤務医の時は帰れなかったのでそれを改善したかったのです。しかし立場が変わると見方が変わるもので、必ずしも早く帰ることがいいと思っているわけではないようです
あのとき、僕らを病院がマネジメントしてくれなかったことに不満があって、スタッフも勤務医の僕らに賛同していました。しかし実際は賛同していない人もいたんじゃないかと思うようになりました。医者はいっぱい働けて羨ましいと考える人もいるだろうし。
ましてやクリニックでは非常勤で働く時間もバラバラです。杓子定規に同じマネジメントを当てはめるのは無理だという前提で取り組みました。

■医桜通信記者:院長先生の場合、他の医師の方、看護師や職員の方などいろんな職種の方がいて、指示系統の違いなどもあるかと思いますが、そのあたり心がけていることはあるのでしょうか?

▼金澤先生:医師もそうですが、看護師や技師の方の仕事は、ストックする事ができません。事務系の仕事であれば、多少、順番を前後する事ができても、受付なんかは後回しできませんよね。例えばレセプト作業をしている事務スタッフは、受付が混んで来たら、作業を一旦ストップして、患者対応する事ができます。
ですが、看護師の場合は、やる事が増えると対応しきれない事があるんですよね。だから配置とか、やり方の工夫が必要かと思って。あと看護師でなくともできる仕事を事務スタッフが看護補助として手伝ってくれると助かります。例えば、機器の洗浄や患者さんの受診サポートなど、看護師でなくてもできる看護助手的業務をしてくれるスタッフがいるのは大きいと思います。
そういう意味では、一番忙しい時に標準を合わせて人員を配置しています。
ただ事務スタッフを多く配置しすぎると無駄が多くなるので、効率的にできるように仕事の割り振りを考えないといけないですし、同じ仕事を二つの職種ができるようにするにはお互いにスキルを高めなくてはいけなくなり、大変なこともあります。

■記者:本来やる仕事より、ちょっと幅を広げた感じなんでしょうか?

▼金澤先生:事務だけやっていればいい、注射だけ打っていればいい、という考えもあるけど、役割を固定せずに管理するのがマネジメントの面白さじゃないかと。現場は大変かもしれませんが(笑)

■記者:今はそれが実践できているという事でしょうか?

▼金澤先生:そう。事務スタッフがけっこう入ってやってくれてます。
今はマネジメントするのは面白いですね。
勤務医の頃の外来では、検査予約とか僕が全部やっていたんですよね。僕が事務や看護師の役割を果たしていたといってもいいかもしれない。同意書や前処置の薬を渡したりとか医師自らしていましたが、今は看護師がそういった仕事をやってくれてるし、検査予約とか簡単な説明は事務スタッフが対応してくれています。

■医桜通信記者:なるほど

▼金澤先生:なので、考え方としては、事務スタッフができないものは看護師に。看護師ができない事は僕に、となっています。開業当初は、勤務医時代のように全部自分でやっていたから、内視鏡検査をするにしても予約だけでも10~15分掛かっていたけど、今は「じゃあ、予約しましょうか」の一言で終わるようになっています。
■医桜通信記者:役割が明確になってきた、という事でしょうか?

▼金澤先生:そうですね。昔、勤めていた頃は、病院内部の役割分担がされず何でも医師がやってましたけど、今はメディカル・クラークの配置に加算がつくようになって、病院もだいぶ変わってきているはずです。
それでも勤務医は、勝手に人を雇えませんが、僕らのような開業医なら必要なら人を増やして分担を推し進めることを自分の判断でできます。その上で、病院では事務と看護部が縦割りであったところを、当院では内視鏡の洗浄や検査予約など仕事の分担であえて割り振りをグレーなところを残しました。以前の病院に比べて多くスタッフを雇いつつも、事務でも看護師でも手が空いたスタッフが様々な業務に対応できるようにして、人員配置の効率化もはかりました。

■医桜通信記者:なるほど。少し話が変わりますが、院内マネジメントの対象に先生ご自身は入ってますか?

▼金澤先生:正直、今まではあまり自分の事は意識してませんでした。
勤務医の頃は上司に「マネジメントしてくれ」「ちゃんと休ませてくれ」と常々思っていました。「できないなら、僕に院長をやらせてくれ」と思っていたくらいです。
でも開業してからは、忙しくても、寝不足でもしょうがない、自分が院長なのだから、と毎日一生懸命に働いてました。自宅に仕事を持ち帰って忙しくしてましたが、最近、自分が休むのも大事だと思って、非常勤医を雇って休める体制を作ろうとしています。

■医桜通信記者:何事も身体が資本という事ですか?

▼金澤先生:やはりクリニックとして継続性を持つのが大事だと思います。僕が倒れたら継続できなくなると、そういった事を気にするようになりました。

■医桜通信記者:事業の継続性は大事ですよね

▼金澤先生:多分、そういった事を考え始めるのは、時期の問題だと思います。僕の場合、開業して4年~5年ぐらいなって、患者さんも増えて、自分の健康も含めてマネジメントを考えていかないと継続しないな、と。

■医桜通信記者:最初の1~2年目の勢いはやはり継続はしないのでしょうか?

▼金澤先生:そうですね(笑)
初めの頃は、けっこう暇だったから、目いっぱい診察をしても、時間内に終わったんですよ。でも今は、目いっぱい働くと、働いた後の残務整理とかで夜遅くまで働かなくてはいけない。
銀行みたいに午後3時に窓口業務が終わって、それから一日の業務整理する、みたいな時間があればいいんですが、個人診療所ではムリですよね(笑)
だからギリギリまで診察していては、自分が休めなくて、それじゃいけないな、と。ただ、患者さんも増えてきて今さら「何曜日を休診にする」というのも難しいので、どうしていくか、今考えている最中です。

■医桜通信記者:開業して4~5年で医院のマネジメントの在り方が変わってきたという事でしょうか?

▼金澤先生:開業当初は、どうすればいいのか、という最終形が分からなかったんです。今も分かっている訳じゃないですが、初めはそんなに必要ではなかったのは本当です。
マネジメントの重要性は分かっていましたが、取組始めたきっかけは「これぐらい患者さんが増えてきたのだから、ちゃんと考えないと迷惑をかけてしまうかも」と思った事です。だから、意図して4~5年目にマネジメントをしようと思った訳ではないです。

■医桜通信記者:自然と?

▼金澤先生:自然と。良くも悪くも。たまたまうちは4-5年目がその時期だった。

■医桜通信記者:次に開業医の立場から勤務医の立場の方へ、マネジメントに関する経験者として言えるアドバイスをお願いしたいのですが。

▼金澤先生:僕は、開業医をやる前に4年ぐらいフリーの医師として働いている時期があって、勤務医をしていたのは10年前です。だから、今は状況も違うので僕が経験した事のアドバイスが役にたつかどうかは分からないですが、あまりにも世の中の仕組みに多くの勤務医は無知なんだと思います。たとえば、医師の労働は労働基準法に当てはまらないとか平気で言っちゃう人がいたり、部長は管理職だから残業手当がないとか。でも、人事権のない部長って別に管理職じゃないですよね。

■医桜通信記者:はい。名ばかり管理職ですね。

▼金澤先生:でも、そういうのが分からない人が病院にはたくさんいました。これは数年で変わらないな、と諦めて、僕は勤務医を辞めてしまったクチですが、医師でも社会人としてのそういうのは知っていて欲しいんですよね。医療とか学会へ行くとかも大事ですが、働く環境や社会がどういう仕組みになっているのかとか知っておいてほしい。
「俺は患者のために24時間働き続けるからいいんだ」という医師の考え方は、結局、自分のためにもならず、無理な労働をすると、アウトプットのところで差が出て患者の為にもならない。勤務医には患者さんのためにも自分の働く環境を改善することに興味を持って欲しいと思います。

それと、他職種がどう働いているかとかは、ちゃんと見ていたほうがいいかな。
昔、総合病院に勤務していた頃は、事務員の多くはニチイに雇われた派遣スタッフだったりしたので、給与が高い訳じゃなかった。年度を重ねても、時給で数円上がったというレベルで。どんなに頑張っている人がいても、僕はそこをマネジメントできる立場になかったんですよね。看護師は看護師で指示系統が違うので、適性をみてこの人に内視鏡室に来てほしいと思っても無理だった。
でも、そういう視点が、今、役に立っていると思うんですよ。

■医桜通信記者:開業される前提で見ていたわけではないのですよね?

▼金澤先生:ああ、ぜんぜん違います(笑)

■医桜通信記者:そう言えば……みたいな?

▼金澤先生:そうですね(笑)
例えば、5時すぎに、救急患者が来ると、ドクターはいいんですけど、小さいお子さんのいるパート看護師さんなんかは、凄く対応に困るんですよね。子供を迎えに行く時間は決まっている、でも目の前の急患を放って帰る訳にもいかない。そういうのをサポートする体制が病院には全然なくて、困っていたんですよ。
もちろん、その中で創意工夫する事は大事だと思うのですが、それを現場がなぁなぁでやるのではなく、そういう事態が想定されるんだから、システムとして体制を整えるっていうのは、病院でも診療所でもやるべきこと、だと僕は思います。
立場が変わって、今はマネジメントされる側から、する側に変わったので、そこは自分でできる楽しさがすごくあります。
「スタッフが働き続ける事ができる環境作り」がマネジメントでとても大事だと考えてます。最近流行のブラック企業とか、給料も安いし、長時間勤務だし、在籍期間も短くなる。そうすると仕事の練度も低くなるし、教育も不十分になって、どこかで続かなくなる。

■医桜通信記者:はい、組織がもたないと思います。

▼金澤先生:少なくとも、スパイラルの閉じるほうでなく、広がるほうへ行かないと。
やはり貧すれば鈍すみたいなのはあるから、勝ち続けないと「マネジメント」はできないですよね。ちゃんと継続していく上でも大事な事だと思います。

■医桜通信記者:はい、今日はほんとにありがとうございました。

 

(取材・文責 渡辺大介)